思い出の芝居:『エクウス』
- 東浦弘樹
- 2016年5月2日
- 読了時間: 2分
初めて芝居を見たのはいつかという話になると、たぶん幼稚園や小学校低学年のときまでさかのぼるでしょうが、自分で見たいと思ってチケットを買って見た最初の芝居というと劇団四季の『エクウス』だと思います。
あれは私が高校生だったときですから、1975年頃のことです(歳がばれますね――隠しても仕方ないので言いますと、57歳です)。劇団四季というと、いまではミュージカル専門のようになっていますが、当時はむしろストレートプレイで有名でした。その四季が上演する『エクウス』の紹介記事を毎日新聞の夕刊で読んで、なぜだかわからないけれど見たくてたまらなくなり、初めて自分でチケットを手配して劇場に足を運びました。
『エクウス』(ラテン語で「馬」を意味します)は、馬の眼をアイスピックで突いた少年と、その少年の精神鑑定をする医者の物語で、家にも学校にもなじめず馬だけを愛していた少年がなぜそんなことをしたのかが徐々に明らかにされるというサスペンス仕立ての芝居です。精神科医を演じたのは、日下武史。少年を演じたのは……なんと市村正親(当時は十代の少年を演じられるほど若かったのです)。
すばらしい芝居でした。いまでも少年が幼児に戻って「お馬さんのことばで話してよ」と言う場面やストリップショーだかポルノ映画だかを見に行って父親とばったり出くわす場面、思いを寄せる少女と馬小屋で愛をかわそうとして失敗する場面などは目に焼き付いています。最初にこういう芝居と出会えた私は幸運でした。
『エクウス』の作者はピーター・シェーファー。他に有名どころとしては、映画化された『アマデウス』や『フォロー・ミー』があります。『アマデウス』については、いまさら説明の必要はないでしょうが、『フォロー・ミー』は、新婚生活になじめず毎日出歩いている新妻(ミア・ファーロー)と夫に依頼されて彼女を尾行する探偵(トポル)の間に生まれる心の絆、淡い恋心を描いた作品で、原作となった戯曲のタイトルはPublic Eye。日本で演じる場合は『他人の目』と訳されることが多いようですが、私立探偵を意味するPrivate Eyeをもじったものです。こちらも「超」がつく名作です。是非ご覧ください。
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